きみはアゲハ その2



2015年5月7日


プランターの添え木に置いた軍手の上で、アゲハチョウはくつろいでいるようだった。

夜、リビングの照明を落としてしばらくすると、アゲハチョウは羽ばたこうとして、じゅうたんの上に落ちた。

となりの和室からもれる光に向かって、歩いていく。

「そうか。光に向かう習性なんだ」

ぼくはふすまを閉めて光を遮断してから、アゲハチョウを軍手の上にもどした。

深呼吸するように羽を閉じたり開いたりして、じっとする。落ち着いた合図だ。

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このぶんなら、明日も元気でいるだろう。

翌朝、カーテンを開けると、アゲハチョウは落ち着きをなくした。じゅうたんに落ち、まっすぐ窓に向かって、レースカーテンをのぼりはじめる。

光を求めているんだ。

アゲハチョウはレースカーテンをどんどんのぼり、ぼくの目の高さぐらいのところで、羽を開いたり閉じたりして、落ち着いた。

気持ちよさそうに光をあびる姿は、見ているぼくを穏やかな気持ちにさせた。

しかし、しばらくすると、またのぼりはじめた。カーテン頂点で、羽ばたこうとして、ぽてっと落ちる。

まだ飛べると、思っているのだろう。

それから終日、アゲハチョウはレースカーテンをのぼっては落ちるをくり返した。

飛ぶことをあきらめない。でも、奇跡は起きない。ぼくは、どうしたって、アゲハチョウの願いをかなえてやることはできない。

その夜、アゲハチョウの様子が急変した。苦しそうにバタバタと、床を転げ回りだしたのだ。

次の瞬間、アゲハチョウの体から、ぽろっと、脚が1本もげた。

「うわっ!」


しばらくして、また1本もげた。

ぼくは、おろおろした。

今日、脚を酷使したのが、まずかったんじゃないか。きっと、チョウの脚は歩くのに適さないつくりになっているんだ。

ぼくが室内に入れたせいだ……。

のたうちまわるアゲハチョウを見たくなかった。

ぼくはアゲハチョウをパッションフルーツの根元に置くと、リビングを後にした。


明け方、夢を見た。

アゲハチョウが元気になり、羽も生えそろっている姿だ。「ああ、よかった。また変態できたんだね」夢の中で、ぼくはアゲハチョウに語りかけていた。

つづく


katuo,ari sasaki