きみはアゲハ その1


2015年5月6日


花に水をやる。太陽の光を反射して、水がキラキラひかる。

絶好のゴールデンウィーク日和だ。

と、カサカサと動くものが、目の端に入った。

ベランダの隅でもがくもの。黒と黄みがかった白のライン模様。アゲハチョウ……だけど、なんかへんだ。

よく見ると、4枚の羽のうち、上の2枚が折れ曲がっているうえ、下の2枚がやぶれて、ほとんど失われている。

飛んでいる途中で鳥にやられたのか、うちより上の階のベランダで羽化したものの、羽が乾く前になにかアクシデントがあったか、そのどちらかだろう。

折れた羽をなおしてやろうと、指でつまんでみたが、乾ききっていて、なおらない。

アゲハチョウをプランターの植物に置くと、羽ばたこうとして、ぽてっと、落ちた。

バタバタもがく姿は、なぜ飛べないのか、理由がわからず混乱しているように見える。そっと、指を差し出すと、必死でつかんできた。

助けて……。

そう言っているように見える。

いや、そうやって勝手な解釈で手をさしのべるのは、人間のエゴだ。自分の力で食料を得られなければ、死ぬのが自然の掟。

ぼくは、プランターの葉にアゲハチョウを置いて、部屋に入った。朝食を終え、PCでメールチェックをする。

そういや、アゲハチョウのこと、よく知らないな。

ネットでアゲハチョウを検索した。

日本でアゲハチョウといえば、アゲハチョウ亜科。ナミアゲハが代表格。蛹は冬を越すものもあるというから、あいつは、その冬越し蛹だったのだろう。卵100個のうち、成虫になるのは1個か2個ってことは、あいつは100分の1ぐらいの確立で生まれてきた希少なチョウなんだ……。

ぼくはまた、ベランダに出た。プランターの土の上に、ひっくりかえったアゲハがいる。

飛ぼうとして、ひっくりかえったのだろう。

指を差し出すと、また必死につかんでくる。

なんで、わたしは飛べないの?

そう問いかけているようだ。

いや、そう思うのは、自分に重ねて見ているからだ。

思うようにはいかない日々、羽ばたけない現状をもどかしく思っているからだろう。自己愛の強さに半ばあきれつつ、ぼくはアゲハチョウを部屋に入れた。

アゲハチョウの飼育方法に、ハチミツ水を与えるとあったが、ハチミツがないので、砂糖水をつくってコットンにひたす。

コットンの上にアゲハチョウを置くと、するすると、ストローをのばして吸い始めた。

しばらくすると、お腹がぷっくりふくれたように見えた。背中もつやつやして、元気そうだ。

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部屋に置いてあるパッションフルーツの葉にのせると、つかまりにくいようで、ぽてっと落ちた。つまみあげて見ると、やぶれた下の羽の一部が脚にくっついている。

「このせいで、歩きにくいんだな」

ぼくは脚についた羽をとりのぞき、チョウをプランターの添え木の上にある軍手にのせた。今度はつかみやすいようで、ひょこひょこ軍手の上までのぼり、深呼吸するように羽を開いたり閉じたりした。

正確には、羽が折れ曲がっているせいで、しっかり閉じることはできないのだけど。

部屋で飼育されることを、アゲハチョウが望んでいるかどうかはわからない。

でも、これもなにかの縁ということで、つきあってもらおう。

こうして、ぼくとアゲハチョウの同居がはじまった。

つづく


katuo,ari sasaki