知里幸恵物語


『知里幸恵物語 アイヌの「物語」を命がけで伝えた人』

金治直美・著 (PHP研究所)1400円+税

chiri

アイヌは、独自の文化を持つ日本の先住民族です。

文字を持たず、膨大な物語を口で伝えてきました。


アイヌの人々が語りついできた言葉には、

自然と共に生きる、のびやかな精神性が息づいています。


けれども、日本語を話す和人(大和民族)は、

アイヌから言葉や文化、暮らし方を奪って、迫害しました。


明治に入り、アイヌへの支配と差別はさらに強まります。

そんななか、幸恵はアイヌの言葉を残そうと、全力を注ぐのです。


読んでいて、なんども胸がつまりました。


人はとかく、よそにあるものを良く思い、

そばにあるものは当たり前すぎて、その良さに気づけない傾向にあります。


しかも、差別され、自分たちはそういう者だと、すりこまれ続けたら、

自分たちが持っているものに自信など、持てなくなりそうです。


それが支配の構図です。

ある価値観を植え付け、自尊心をうばうことで抵抗する気も起こさせなくするのです。


しかし、幸恵は、言語学者で民族学者の金田一京助と出会ったことで、

自分が持っている宝に気がつくことができました。

そこから、自身の才能を開花させたのです。


幸恵が残したものは、アイヌの言葉だけではありません。

先祖代々が大切にしてきたもの、自分たちの核となるものへの誇りです。


著者の金治さんのあとがきに、また心を打たれました。

「アイヌの人びとが長い歴史の中で流したなみだを、

ひとしずくでも分かち合ってもらえるなら、こんなにうれしいことはありません」


幸恵の生き様から、私たちは多くのことを感じ、考えることができます。


多様性を良しとする世の中であるよう、

私たちは心に留めておかなければならないことがあるのです。






ari sasaki