ふしぎ日和


あさのあつこ・土山優、八束澄子選「季節風」書きおろし短編集

『ふしぎ日和』(主婦の友社) 660円

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あさのあつこが主宰する文芸同人「季節風」のメンバーによる、

ふしぎをテーマとした短編集。


吉田純子「正義の味方 ヘルメットマン」

 子どもの頃に聞いた占いにしばられて、なにに対しても消極的な奈々。

 彼女がバイトする店に、毎日、ヘルメットを1つ買いにくる青年がいて……。

 滑稽なんだけども、純粋で真剣な奈々が、魅力的。

 ドラマのようなテンポの良さに、引き込まれた。

 

森川成美「うたう湯釜」

 舞台は明治。

 町長の家で奉公する蕗は、ひそかに幼なじみの健吉どんに思いを寄せている。

 ダメ男であるとわかっても、なお健吉に手をさしのべる蕗。

 町の派閥を二分する事件のなかで、それは起きて……。

 大人の世界に足を踏み入れる瞬間の物語というのだろうか。

 夢見る時間は終わり、自分の人生に責任を持つ覚悟が感じられた。


工藤純子「働き女子!」

 18年間、同じ会社で働くうちに、働く目的を見失った聡美。

 リストラ面接中、聡美は窓の外に白い影が横切るのを見る。

 同僚いわく、「それ、仕事のかみさまかも」

 長く仕事をしているうちに、受け身になってしまうことってまま、あると思う。

 聡美の出す答えは爽快だ。


村田和文「裏木戸の向こうから」

 駆け落ちをし、両親と連絡をとらずに生きてきた優子。

 母の入院により、幼い息子を連れて久しぶりに実家に戻る。

 母は「裏に住んでいるおばあさんに助けてもらった」という。

 優子は、裏のおばあさんにあいさつをしに行くが……。

 母と娘、それぞれの人生がしだいに浮き彫りになり、

 せつなくとも、やさしい気持ちになる。


井嶋敦子「生まれたての笑顔」

 かすみは小児科医師。新生児集中治療室で、未熟児を治療する。

 かすみ自身、未熟児を産んだばかりで、母として治療室を訪れながら、

 治療の手伝いをしている。

 感情をうまく表情に出せないかすみは「サイボーグ」「ロボット」と

 呼ばれているが……。

 出産により、だれもが母という自覚をもてるわけではない。

 かすみが母になる瞬間に、心がふるえた。


田沢五月「山小屋」

 山小屋の仕事は今年で最後。そう決めた男性の早春から冬にかけての山での体験。

 妖精か亡霊か。小さな女の子と出会うが、関わらないほうがいいと、離れる。

 その晩、道に迷った青年が山小屋にたどりつき、

 やはり、女の子に出会ったという……。

 なぜ、女の子が見えるのか。そのなぞが明らかになったとき、

 どっと心に流れ込んでくるものがあった。

 

 

だれもが幸せになりたくて、大事に思う人がいて、

けれども、思うようにはうまくいかない。

そんな日々があるできごとをきっかけに、大きく変わる。


日常に疲れて、うつむきがちになったとき、

顔をあげる気持ちにさせてくれる。そんな短編集です。





ari sasaki