黒ねこ亭でお茶を


『黒ねこ亭でお茶を』

長井理佳/作 佐竹美保/絵(岩崎書店)1260円

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子どもの頃、東京の練馬にあった親戚の家に行くのが楽しみだった。


廊下がぐるりと巡る、簡素な和風の住宅に、うっそうとした木が茂る森のような庭。

木立の陰になったところにはコケが生え、ビロードの絨毯のようになっていたり、秋には落ち葉が敷き詰められたり。

草陰から、こびとでも出てくるのではないかと思いを巡らし、ごっこ遊びをしたものだった。


だが、親戚が亡くなり、家もなくなってしまったので、私には思い出の中でしか会えない、まぼろしの庭になってしまった。その庭と、久しぶりに再会できた気分だ。


本書は、亡くなったおばあちゃんの家に、マリコと母が引っ越すことに始まる。おばあちゃんが大事にしていた庭を、マリコが受け継ぎ、毎日欠かさず手入れをする。

やがて、不思議でステキな出会いが次々におこるのである。


少女だった私があこがれて、やまない世界。

あーこんな体験をしたかったと、ため息まじりに読み進める。


木々のざわめき、花のゆらぎ。小さなものたちの、ほのぼのとした交流。


マリコのおばあちゃんが大事にしていたのは、庭だけにとどまらず、季節やら、流れる風やこぼれる陽の光やら、庭に息づく者達やら、愛情やらと、とんでもなく広く、大きいものだっただとわかる。


手をかければかけるほど応えてくれるものがある。思いをかければかけるほど、返ってくる気持ちがある。そんなぬくもりの循環が、どこの世界にもあればいいのにね。



ari sasaki