伝記 すぎはら ちうね

絵本版新こども伝記ものがたり5『すぎはら ちうね 6000人の命を救え!』

文・間部香代 絵・牧野鈴子 (チャイルド本社) 定価650円

sugihara

戦時中、日本の外交官として、ヨーロッパのリトアニアに赴任した杉原千畝。

その名が日本で知られるようになったのは、近年になってからです。


というのも、リトアニアは戦後、ソ連に占領されていて、

日本との外交関係が回復したのは、1991年だったからです。

リトアニアでは、2000年に杉原千畝の生誕100周年行事が行われるほど、

有名な人物でした。


千畝が行った偉業は、ナチス・ドイツが侵攻してくる前に、

リトアニアにいたユダヤ人にビザを発行したことです。

ビザのおかげで、多くのユダヤ人が海外へ逃れ、生きのびることができました。


本書では、国家に仕える役人としての立場と

一個人としての思いの間で葛藤した末、

一人の人間として困っている人々を救おうと決断した

千畝の心の動きを追っています。


まだ歴史を習っていない小学校低学年前後を対象とした本で、

このストーリーを描くのは、とてもむずかしいです。


外交官はどんな仕事をする人か、

また、第二次世界大戦時、日本とドイツがどんな関係で、

ユダヤ人がどんな立場にあったかを説明しなければ、

杉原千畝の偉業は伝わらないからです。


この難問をやわらかい言葉で解決し、

そのうえ、千畝や家族の心理、苦労を伝えるストーリーにしたのは、

「見事」としかいいようがありません。


あとがきの言葉にも、また胸を打たれました。


杉原千畝が日本の命令に従わずユダヤ人を助けたことに対して、

のちに「ユダヤ人からたくさんお金をもらったんだ」と、

根も葉もない噂が流れたと記したうえで、


「人として正しいことを、ちゃんと選ぶ力を持つ。

 千畝の書いた『命のビザ』は、その大切さを私たちに

指し示してくれています」

と結んでいます。


同調思考の強い日本人に、この言葉は重いです。

しかと受けとめました。




ari sasaki